「あぁ、腰いてぇ」
そういいながら、腰を片手で押さえながら伸びをする老人が居た。
その老人は広い畑でここ数日仕事に追われていた。
「まったく、まったく。ここの収穫、わしだけじゃ終わりそうもないわい。」
そういって近くの道端に座る。しばらく休憩だ。
すっかり年を取ってしまった体にうんざりする。家族を養うためとはいえ、畑をいくつか持ってそれをほぼ
一人で手入れしていかなくてはいけないという生活は加減限界がある。
私には娘が三人いる。みな、見た目では悪いとはいえないのだが…それは親の視点からかも知れないのだが
…とにかく働くのが嫌いだったのだ。
実際自分も若いころは働くのは嫌いで逃げたい、逃げたいと考えていた。娘達がそうゆう風な性格になった
のに原因をつけるとしたら自分だろう、と思う。それに男というものに頼れる女という性別だけにその性格
は余計に行き過ぎてしまっているのかもしれない。
この時期はつらい。この収穫の時期を逃すと今まで育ててきたものたちへの苦労は水の泡となるばかりか、
次の一年間を生き延びるためのお金もろくに手に入らなくなってしまう。この時期だけでも娘達には手伝っ
てもらいたいものだ。
とはいえ、そうはいえないのもまた事実である。連れをなくしてしまった自分にとっては、もう娘しかいな
いのだ。この年で連れを作るのは考えるのも莫迦莫迦しい。せめて一人でも男なら楽だったろうに。
理由はもう一つある。娘達は最近ようやく、少しずつではあるが手伝いをするようになってきたのだった。
手伝いといっても洗濯や料理などの家事だ。三人でようやくやりきっているようだから、ここで無理をさせ
てやる気をなくされるのも困る。うまくいけばこっちの仕事まで手伝ってくれるようになるかもしれない。
少しの辛抱だ。
重い腰を上げた。仕事に戻ろう。
しかし、自分で思っている以上に疲労が大きかったようだ。立ちくらみに襲われて再びもとの位置に座りこむ。
「あぁ、誰かわしのことを手伝ってはくれんかな…。娘のうち一人ぐらいやるのに…。」
思わずつぶやいてしまった、その途端だった。
「今のは本当ですか?それなら手伝いますよ。」
どこからか声がした。聞き覚えのない訛りのあるような声だ。
辺りを見回すが人影はない。
そのかわりに自分に後ろには…一匹の猿がいた。
目を丸くして驚く自分に猿はまたいった。
「あなたの娘さんをくれると約束してくれるのなら、収穫のお手伝いをいたしましょう。」
こ、これは夢だ。そう、きっと夢だ夢だ…。
「お手伝いいたしましょうか?」と、もう一度聞かれる。確かに猿が喋った。
頭が混乱してしまい、あぁ…、と唸るようにその言葉にうなずいてしまったのだった。
よく考えればそんなこと言ってはいけないことはわかっただろうが、そのときは疲れていて、それでもって
時間に追われていたために猫の手ならぬ、猿の手でも借りたかったわけだ。
その答えは聞いた猿はさっそく上機嫌で収穫を始めたのだった。
夢ではないと目が覚めたのは猿が、足早に作業を進め、自分が今日一日やった分以上をさっさと終わらせて
しまった後だった。いまさら無理なことだったなどといえない…。
やがて、日が暮れてきた。自分が猿の手伝いをしているような、そんな逆転した感覚がするほどに作業の速
さは違かった。自分なら二三日かかるような量をほんの半日程度で終わらせてしまったのだった。
「おじいさん、おじいさん。今日はこれくらいしかできませんでしたけど、仕事が全部終わるまで手伝いに
きますので、どうか約束はきちんとはたしてくださいな。」
無理だというなら今だ。とは思ったもののなかなか言い出せず、猿はさっさと帰ってしまったのだった。
帰りの道中ずっと考えていた。
だれを嫁に行かせるか…。みな、いやというだろう。だからといって猿との約束をやぶるわけには行かない。
畜生とはいえ、恩人のようなものだ。
家に着くと娘達が出迎えた。だけどいまは顔を見たくなかった。これから話さなくてはいけないことを考
えると当たり前だ。彼女らの心配を軽く受け流すようにして、少し疲れた。といいわけで寝床に入った。
薄暗い部屋の中でまだくよくよと悩んでいた。最後には話しざるをえないというのに、話すべきか話さぬべ
きか…。
正直な話、猿なんぞ畜生めに大切な娘をやりたいわけがない。だけど、約束を軽んじるような行為だけは
したくない。それに畜生とはいえ猿は頭がいい。現に人間の言葉まで喋ってしまっていたではないか。
その思いは頭を悩ませるばかりであった。

次の日、いつものように朝を起きるはずだった。だけども目を冷めるたびに猿のことを思い出し再び布団を
頭からかぶる。心配する娘達をよそにしばらくそんなことを続けていた。
昼近くになったころ、ようやく思いなおした。猿のことは別として仕事はこなさなくては。
ぬくぬくとおきだし、なんでもないと娘達にいい、昼に近い朝飯を食べていつもの、自分の畑へ向かった。
そこには既に猿がまっていた。
「おじいさん、今日は遅かったのですね。もう始めてました。」
お前の所為でこんなに悩んでいるというのに…。そんな相手の間違った怒りを覚えながら畑の方を見た。
驚いた。相当朝から張り切っていたの見える。この調子で行けば今日中に終わってしまうような勢いであっ
た。
「猿よ、今日はちょっと休憩だ。明日またやろうではないか。」
「いえいえ。早いにこしたことはありません。それに私はまだまだ動けます」
そういってまた仕事を始めてしまった。娘達に話すのはなるべく先延ばしにしようと思っていたが、そうも
行かなくなってしまった。
そこで出来るだけ遅く終わるようにゆっくりと、だるそうに自分も始めた。

やがて日が完全に落ちそうになったころ、完全にすべての作業が終わってしまった。猿の完璧な仕事振りに
は人間でも驚く。アレが人間ならば、きっといい青年だったろうに。
終わりしだい
「やっと終わりましたね。どうか約束は果たしてくださいな。」
昨日と同じように約束に関してしっかりと確認すると、猿は昨日と同じ方向へ帰っていった。
きっと娘のうちの一人は、今猿が向かう場所へついて行かなくては行けなくなるのだろう…。
気を重くして帰ると、やっぱり娘達の顔は見られず布団にもぐってしまった。
うすぐらい部屋でずっとぼんやりといろいろ考えていた。考えては消えて考えては消えて…知らないうちに
時間が過ぎていった。晩御飯を作る匂いがしてくる。そろそろ誰かが呼びに来るだろう。そのときに話して
みよう。

「お父さん、どうしたのですか?ご飯の用意ができましたよ。」
長女の声がする。恋に夢見る少女にこんな話はできればしたくない。しかし…。
部屋に入ってきた少女にこっちへくるようにいい、自分は姿勢をただしすわり話だした。
長女はその態度に相当驚いたようだったが昨日、今日の経緯を話し出すと、
「猿の嫁になんていきますか!」
と言って、話の終わる前に長女は怒って出て行ってしまった。はぁ…。まったくだ、まったくだ。誰が猿な
んかの嫁に行くものか。自分だってわかってる。それを娘たちに押し付けるしかないとは、自分で自分が惨
めな気分になる。

しばらくして次女が部屋に入ってきた。長女はそのことを二人には話していないようで、次女はそのことを
知らなかった。自分から伝えることはいいことなのか、それとも悪いことなのかそれはわからないが、もう
一度惨めな気分になりながらいままでの経緯を話すしかないと思うと、さらに気が重くなった。
長女の時と同じように姿勢をきちんと正し、これから話すことがあると言った。話は聞いていなかったよう
だったが、きっと長女の態度になにか話されるだろうという予想をしていたのだろう。次女はそのことに
対しては長女ほど驚いていなかった。
「いやだ。猿の嫁なんかいやだ!」話が終わると泣きながら部屋を飛び出していってしまった。
本当に当たり前だ。自分だって逆の立場なら絶対にいやだ。それでもどうしたものか。泣かせてしまうとは
相当傷ついただろうに。親と失格としかいいようがない。

やがて一番下の娘が入ってきた。
いままでの二人の態度の変化を不思議がっているのか困惑したような表情である。これからなにかを話され
ることはやはりまた、予想しているようだ。しかし、一番下だけに一番行かせたくないのだ。この子にだけ
は話さないでおこうか?いや、それは無理だろう。あの二人があそこまでいや、といった以上説得は出来そ
うにない。頼みの綱はこの子だ。
そうして三度目の今までの経緯を語って聞かせた。
聞き終わったあとの反応は自分が驚いてしまうものだった。いままでの二人の怒りと違って面白そうに聞い
ていたのだった。喋る猿が気になったのだろう。きっとまだ、嫁に行くということの意味を知らないのだろ
う。ますます、この子にだけは行かせたくないという思いがこみ上げてきた。
おとうさん。と、いつもと変わらない呼びかけをしてきた。
「私行きます。猿の嫁になります。いままでありがとうございました。恩返しだと思ってください。」
自分で言った癖に自分で唖然のしてしまった。本当にいいのか?という質問は何回したかわからないぐらい
した。嫁にいくということについてちゃんと話をしても娘の意思は変わらなかった。
なんと親孝行な娘をもったことだ。思わず涙がでてきてしまった。うれしさと、行ってしまうという悲しさ
からだ。
泣かないで、と慰める娘の姿によけいに涙が出てしまった。
年取ると涙もろくなるものだ。

次の日、いつもどおりに畑へ向かった。
朝の冷たい風が気持ちがいい。心のつっかえが取れるこの風も、今日は取れそうもなかった。収穫の早めに
終わった畑は、自分の今の心境のようにさびしく感じるものだった。
しばらくして、ここ二日の間に聞きなれた猿の声がした。
この猿に悪気はないと思っても、憎らしさが生まれてしまう。そんな気持ちをどうにか沈め声の方を向いた。
猿は猿なりにめかし込んできていた。人間と同じように小さめの着物を着ているのはふきださないで居られ
たのは自分でもびっくりだ。
道中は足が重かった。出来るだけゆっくりと歩を進め、休憩も無理やりたくさん入れながら進んだ。猿はう
かれているのか、よほどうれしいのか、そんなこと全く気になっている様子はなかった。
休憩を入れるたびに猿からの質問「どんな方なんですか?」自分は答えなかった。それでも気分を損なう事
などしなかったほどだ。
娘達の待っている家が見えてきたときもう一度猿から問われた。
「どんな方なんですか?」
「…親孝行なやさしい子だ。」
思わず喋ってしまった。猿の方を見てみるがそれ以上なにも聞かれることはなかった。どうやら答えようが
答えまいが関係なかったらしい。
家に着くとみなは得にめかし込んだりというようなことはしてなかった。猿の嫁にいくことになってしまっ
た末の子が出迎えただけで、どうやら上の二人は部屋にこもっているらしい。

猿が人の言葉を話せるからか、普通の婿入りのような形で時間が過ぎた。お互い緊張していたのがわかった。
とりあえず話の結果だと、節句の少し前辺りに末の子が猿たちのところへ嫁としていってしまうことになっ
た。
猿が帰った後、家は静かだった。部屋から出てきた上の二人は黙りこくっていた。自分が猿の嫁にいくのは
いやだが、妹に行かせるのもいやなのだろう。
気まずい雰囲気だった。誰も口を開かない。
そんな中突然空気が変わったのだった。
「そんなに悪い感じの人じゃないじゃない」
末の子の一言だった。
それから自分達はおいおいと泣きじゃくり、末の子の慰める声に再び涙を流すのだった。
立派に成長したものだ。自慢の娘だ。

節句前になり末の子は猿の嫁として、とうとう家を出て行ったのだった。そのときの姿はとても、自分の娘
とは思えないほどの美しさで…猿なんぞに、と思うと悔しくて悔しくて。
節句はすぐですから、節句になったら戻ってきますから。別れの言葉はそれだった。
たったの一週間程度だが長かった。末が居ない家はさびしい、その一言に限った。居なくなった当初は、猿
が一番最初に来た日のように黙りこくっていたが次第に会話はするようになった。それでもいままで居たは
ずの場所から一人消えてしまい、それに気づくたびに会話は途切れるのだった。
末の子は自分達が居なくなると一人で泣いていることが度々あった。それでも誰か一人でも近くにいると、
元気になにごともないかのように振舞った。心配をかけさせたくなかったのだろうが、一度でいいから慰め
ておいてやればよかったと思った。
さて、少しの間しか帰ってこれない娘のために今日は飛びっきりのもてなしをしなくては。


猿達の村での生活はそう悪いと言い切れるものではなかった。猿は人間よりも劣っているというのは間違い
であったことがわかった。とはいえ、前に見たことのある猿は人の言葉も喋れなかったし、考え方もこんな
に良くなかったと思う。きっと特別な猿たちなのだろう。
猿たちは私に最大の歓迎と祝宴を挙げてくれた。それは人間の方でも豪華といえる食材が次々とでてくる物
でこんなにうまいものは、母がまだ居るころ、正月に作ってくれた手料理ぶりだ。
私は人間という身分であることは、猿の嫁であったとしても変わらないようで婿となった猿とその家族以外
には猿と人間という壁があることは確かだった。
命令はしないもののお願いをすれば絶対に引き受けてくれるのだった。とはいえ、その好意のようなものが
逆に気を使ってしまって下手に喋りかけられないのだ。
会話は出来るのだが、どうしても話が合わない。猿は仕事のことや食べ物のこと。そうゆうことにしか脳が
ないのか文芸や音楽、絵に関しては話ができない。もともとそうゆうものが好きだった私にはつらいものだ
った。
家が恋しかった。昔から住んでいる古臭い家。本や楽器、絵。姉達。みんなで作ったご飯。そして父さん。
たった一週間も経たないうちに、家が恋しくて恋しくてしょうがなくなった。
もう一度あの家で、あの家族で暮らせるのなら何だって差し出すのに。

ようやく節句の日が来た。気持ちの良い春の晴れだ。なんだか気持ちがいい。こちらに来てから初めての感
覚だった。
「実家へ持っていく品はなにがいいか?」突然の声がかかった。
すぐにその主はわかった。ここ一週間ですっかり聞きなれた声だったからだ。私の婿である猿だ。いまだに
婿とは自分でも信じられないし信じてない。なにかの間違いなんじゃないかと良く思うほどである。
あぁ、かえれるんだ。そのままずっと家にいれればいいのに…。
そのとき、パッとアイデアが浮かんだ。猿さんには悪いけど、もしかしたら…帰って、そのまま元の暮らし
に戻れるかもしれない!
「餅がいい、餅がいい。父さんは餅が好きなんだ。きっと喜ぶ。」
そうゆうと婿の猿は必死に材料を集めだした。
早く帰りたい私は手伝う、といったがゆっくりしてなされと座らされた。
見ているうちに手伝う必要がなかったことを悟った。その手際のいいことやら。私がいたら逆に足をひっぱ
ってしまう。
あっという間に餅は出来た。私はその間に向こうに行くための荷造りを終わらせておいたため、すぐに出発
することになった。見送りは殆ど居なかった。婿ざるはどうやら妬まれているらしい。
餅を臼から取り出そうとする猿に私は急いでいった。
「父さんは臼に入ったままの方が喜ぶ。臼ごともって行ってやって」
猿はそれを聞くと、取り出すのをやめてそのまま臼を背中に背負った。猿はそれを苦ともせずに背負いなが
ら歩いた。
しばらくいくと流れの激しい河が左手に流れる場所まで来た。その近くにある絶壁を見上げた。
あぁ、あったあった。私の記憶は正しかった。
「猿さん、猿さん。あそこに藤の花が咲いているのが見えますか?」
私の声にすかさず猿は耳を傾け、その藤の花を探す。
「猿さん、父さんは藤の花が好きなのです。あの花を取ってきてはもらえないですか?」
「いいでしょう。ちょっと待っててください。」
そういって猿は臼を地面に下ろそうとする。
「猿さん、父さんは地面に置いた餅は土臭いといって嫌いなのです。ですから背負ったまま行ってもらえな
いですか?」
「わかったわかった。それでは少しばかり待ってておくれ」
猿は私の言ったとおりに臼を背負ったままその藤の花を取るために崖を登っていった。
藤の花は崖のところどころに点々と咲いていた。猿はあっという間に一番近くの藤の花の場所まで辿りつい
た。
「猿さん、きっと父さんはてっぺんに咲いてる花の方が喜びます。一番上まで行ってもらえないですか?」
猿はその言葉を聞くと目の前にある藤の花を諦めてもっと上を目指しにいった。
上の方まで行った猿は少しばかり苦戦を強いられた。上に行くにつれて足場が少なくなってくるのだ。少な
いとはいえ猿は猿。木登りや崖登りは得意中の得意。だけど、今日は臼をいう邪魔者を背負っている。これ
では自由に動き回ることが出来ない。
どうにか登るうちにようやくてっぺんの藤の花がなんとか手に届く辺りまで来た。思いっきり手を伸ばせば
なんとか届く。岩が不思議な方向に出っ張っていて、臼を背負ったままではこれ以上登るのは無理そうだ。
猿は必死に手を伸ばした。もう少し、もう少しだ。
ずるっ。
足場にしていた石が崩れた。急いで手を出っ張っている岩に引っ掛けるが、重い重い臼を背負っている。腕
が耐え切れずにそのまま河へ落ちてしまった。
必死に泳いで岸へたどり着こうとするが、重い臼はここでも邪魔をしてどんどんと猿を沈ませていく。必死
にあがいても何とか水面へ浮くばかりで河に流されこちらの岸へ近づくことはできない。
やがて猿はあがくのをやめた。もう、助からないと思ったのだろう。
死する命は惜しくない。姫の嘆きはいといと惜しきかな。
猿はそう最後に声を張り上げた。しかし、体力を使い果たした体から出る声はいつもより小さく、河の流れる
音にかき消されてしまっていた。
姫にその声は届かなかった。とはいえ、猿はそれを確認すらすることは出来なかった。

猿は完全に流れていってしまった。助けようとしても助けるのは無理だっただろう。
自分でも悪いことをしたのはわかって居る。それでも家へ帰りたかった。猿への罪悪感から気分上々という
感じにはなれなかったが、それでももう一度家へ帰れると思うとうれしい。
どこかで違う猿が見ていたかもしれない。あの猿が戻ってくるかもしれない。罪悪感からか、そんな恐怖が
湧き上がった。
そうだ。私はもう帰れるんだ。きっと家では今日のためになにか作っておいてくれているはず。
もう一度河を見た。ごめんなさい。悪い猿さんじゃなかった。人間だったら快く嫁にいったのに。
辺りを見回してから道を思い出す。よし、こっちだ。
そして駆け出した。


原作
遠野の昔話 笹焼蕪四郎:さる婿入り(最後のころの歌詠みは177話目から)
いばらきのむかし話:さる婿

作者のちょっとしたあとがき
「遠野の昔話 笹焼蕪四郎」、これは遠野の昔話を集めた本です。遠野は岩手県にあります。とても田舎の
場所で田舎の代名詞とも言われるほど田舎なそうです。
かなり有名な民俗学者の柳田國男の「遠野物語」の舞台もその遠野です。
遠野は昔話などがとても有名で親から子の代へ、子から孫へ、時には親から孫へ、昔話が伝えられていく
ようで家庭によって微妙に話の内容が変わるみたいです。その証拠にその「遠野の昔話 笹焼蕪四郎」には
全部で十話もの猿婿入りが書かれています。全体的に見るとちょっとの差しかない物語ですが、一つ一つを
見ると大きな違いもあり、これが繰り返されるうちにまったく違う話になっていくのだな。と伝言ゲームや
都市伝説やうわさの構造をよく感じました。
その本は、すこし気になって読みたくなる人もいるかも知れませんが、はっきりいって非常に難しいです。
注釈などを除いてすべての物語が遠野の…岩手の方言で書かれているからです。「あったずもな」「どんと
はれ」こうゆう響きはとても好きでした。これを読んでから「方言」というものの良さがわかり始めた気が
します。その方言にも負けずに読む気があるなら是非是非、お勧めします。
遠野は他にも妖怪で有名です。座敷童子、赤い河童、天狗などなど。いわば、遠野は日本民俗学の聖地のよ
うなものの一つなのかもしれません。人生の中でいってみたい場所のひとつです。
次の本「いばらきのむかし話」。こちらもそのままですね「いばらき」です。
つまり茨城県の事を指しています。読み比べてみると、差はあるものの殆どの流れは一緒です。
遠野では藤の花だったが、茨城では桃の花。そんな感じの違いしかありません。しかもこの本の注釈にこう
書かれています。『中国西南の苗族の民話。「ヘビむことタニシ女房」の前半部分と、この話の前半とが極
めて似ていることも興味深いことです。』
つまり、中国西南の民話と遠野の昔話、茨城の昔話に同じような構造を持っていたということです。これは
きっと伝言ゲームのように少しずつかわっていきながら伝わったものではじめは一つだったのだと思います。
その地方で伝わる有名なお話と混合して一つの話になってしまうということはよくあることのようで、主人
公の名前や種族が変わることも良くあるのでは?と思います。
ここ数行に関しては自分の説を書いただけであって正しいとは限りません。

さて、今回はこのさる婿入りという昔話を「おじいさん」「むすめ」の視点から僕風に書き直してみました。。
昔話として一度筋の決まったものを書き直すのは、意外と難しいもので苦戦もしましたがどうにか書き上げ
ることができた。何十年、もしかしたら何百年も前から伝わり続けていた有名な話を書くということで、誰
も読まないとしても少しばかり、書き出すときに緊張しました。
推敲を何度も繰り返して、納得のいくものにしていきたいと思っています(今の状態は納得していないとい
うこと)。
取り合えず、例のProjectXのために書いた物。書き上げるのを重要視してしまった。
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